君と僕<短編>
君はあの日以来、あのカフェに行かなくなった。
休日は早朝からケーキを焼いたり、編み物をしたり。
僕は、相変わらず曲作りに励んでいた。
結局、一週間が経ってしまった。
そんなある日。
「順子、カフェ関、行こう」
僕が言い出すと、君は拍子抜けしたような顔をした。
しかし、すぐに表情を変えて
「・・・いい」
と、首を振った。
「僕のことなら、気にしなくていいよ」
・・・分かってるよ、
苦しいけどさ
君はきっと
僕のこと
あのカフェに行くためのアシとしか思ってないんだって
分かってるけど
苦しいけど
それでも
「あのマスターに会いたいんだろ?僕も、謝りたいし」
そう言って、君の腕を掴んだ。
車内は、気まずかった。
でも、嫌な気まずさではなかった。
「ねぇ、太郎。知ってる?」
突然、君が言う。
「ん?」
「あのカフェね、カレーも美味しいんだよ」
久しぶりに見た、
君の自然な笑顔が、そこにはあった。
「そうなんだ、じゃあ今度食べてみようかな・・・」
僕にも自然と笑顔が溢れた。