君と僕<短編>
マスターと幸絵さんが帰った後、君は息を引き取った。
部屋の窓から飛び降りて、倒れている所を通りかかった人が発見したらしい。
僕は、涙が落ちる前に目を拭った。
君を失う恐ろしさを、僕はまだ知らないもんだから・・・。
どうしたらいいのか、分からないよ。
僕は、色んな事を後悔していた。
何であの時、プロポーズしなかったのか・・・とか。
ジャンバーのポケットには、指輪がまだ入っていた。
「順子、」
伝えよう今。
弱くて、素直じゃなくて、遅すぎて、本当にごめん。
「結婚しよう」
僕は、君の青白い指に、指輪をはめた。
ピッタリだったし、君に似合ってた。
何で、こんな時にしか、伝えられないのかな・・・
あの時、伝えてたら、もしかしたら何かが変わったのかもしれないのに・・・
「ずっと、好きだったんだ。言えなくてごめんなさい」
頭を下げた途端、涙が溢れ出した。
もう、拭かなかった。
堪えきれなかった。
君に縋り付いた。
もう一度、目を開けてくれって何度も思った。
だけど、やっぱり、届かなかった。