君と僕<短編>
「どう?うまい?」
ヘッドフォンを外して、君に問い掛る。
「うん、おいしい」
子供のように顔をくしゃくしゃにして笑った。
「ふーん」
照れ隠しのため、ヘッドフォンをしてスポーツ新聞を開いた。
本当に、すきだ。
君の全てが。
しばらくゆっくりして、席を立った。
「ごちそうさま」
僕は何も食べてないけど、一応ね。
車に乗り込み、再び現実へと向かう道をひた走る。
君は、まだ夢を見ているかのような虚ろな目で窓の外をじっと見ていた。
一体、何を考えてるんだろう。
隣が気になって仕方なかった。
そこで、君がすきなT-REXを流した。
陽気なメロディーがドライブ日和の今日なんかにはピッタリだ。
だが、君は、そんなのお構いなしに自分の世界を作り上げていた。
そう
僕が決して入ることのできない、君だけの世界。
君だけの領域を。
「なぁ、順子」
「なに」
君は気の抜けたような声で返事をした。
「引っ越す・・・?」
「え・・・・」
君の顔が曇る。
「あのカフェの近くに住もうよ」
その瞬間、君はとても複雑な顔をした。
喜んでくれると思ってたんだけど・・・。
「ごめん・・・冗談だよ、うん」
肩を落とした。