恋文~指輪が紡ぐ物語~
小さな指輪の内側には、文字が刻まれていた。
ーー K.T.
H4.3.21.
刻まれた文字。
これは、偶然?
花乃のイニシャルに生年月日が刻まれている。
ーードクン
言葉が出ない。
もしかしたら、とても大切なことを忘れているのかもしれない。
「K.T.は、かの、たかすが。君のイニシャル。平成4年3月21日は、君の誕生日。違う?」
ーー違わない。
松岡の言葉に、改めて実感する。
大切なものだ。
私の指輪なんだ、と花乃は思った。
向かいにいる松岡が、困ったような顔で言う。
「どうした?」
花乃は、彼の言葉の意味が理解できずに首を傾げた。
そんな花乃に彼の手が伸びてきて、頬に触れる。
「泣いてる」
言われて、初めて気がついた。
彼の手が離れると、涙が頬を伝う。