恋文~指輪が紡ぐ物語~
* * *
僅かな希望を託して、開けたドア。
その先に、目当ての人物を見つけて、花乃はほっと息をつく。
彼は昨日と同じ、窓際の席で教科書を見つめ難しい顔をしている。
「松岡くん」
遠慮がちにかけられた花乃の声に、松岡の顔が上がった。
「どうかした?」
静かに聞こえる雨音の隙間から低く響く声。
「あ、あの…あのね、お願いがあるの」
僅かに目を細めた彼は、自分の向かいの席を示しながら、「とりあえず座れば」と笑った。
こくりと頷くと、花乃は昨日と同じように彼の前にちょこんと座る。
彼を見ると、窓の外、静かに降る雨を憂いを帯びた漆黒の瞳が見つめていた。
その表情は声をかけることさえはばかれるほど寂しげで、花乃は戸惑い言葉を噤んでしまった。
その瞳の先を知りたくて、花乃も視線を窓の外に向けてみたが、彼の見ている景色は、ここではない遠くのようで寂しくなった。