恋文~指輪が紡ぐ物語~
「で?」
くるりと花乃に向き直った松岡は、花乃に要件を促す。
あまり表情の読み取れない彼に、「え?」と花乃は現実に引き戻された。
「俺にお願いがあるんだろ?」
「あ、そう、そうなの…」
遠慮がちに、松岡の表情を伺う花乃はおずおずと言葉を紡ぐ。
その小さな澄んだ声は、静かな雨音に乗って耳に心地いい。
「あの…あのね、手伝ってほしいの」
肝心の主語がない。
しかし、松岡には花乃の言いたいことがわかる。わかっていながら、あえて「何を?」と尋ねる。
すると、花乃は、首から何かを引っ張り出し、それを松岡に見せた。
チェーンの先には、見覚えのある小さな指輪。
大切な指輪をなくしては大変、と花乃は、昨日の帰りにチェーンを買い、そこに指輪をかけたのだ。
「この指輪を持っていた人を、探したいの。…協力、してくれる?」
徐々に小さくなっていく声。それと同時に、松岡を見ていた顔は、俯いていく。膝の上に置かれた小さな白い手は、ぎゅっと握られていた。