恋文~指輪が紡ぐ物語~

 松岡の口を開く気配を感じて、花乃は握っていた手をさらに強く握りしめる。
 顔が上げられない。

 僅かな時間が、とても長く感じられて。
 音が消えたように、今は雨音さえも聞こえない。


「いいよ」

 その一言に、ぱっと顔を上げた花乃は、自分をまっすぐに見つめる松岡の漆黒の瞳とぶつかった。

 胸が痛くなる。

 なぜだろう?
 知っているはずはないのに、この憂いを帯びた瞳を見るのは、彼が初めてじゃないと心は言う。

 胸が苦しくなって、目をそらしてしまう。

「ありがとう」

 花乃は微笑んだつもりだったが、その表情は僅かに曇っていた。

「いいえ」

 そんな彼女に気付いたのか気付いていないのか、松岡は優しく答える。

「で、手に持ってるそれは?」

 松岡に言われ、花乃ははっとしたように話し出した。

「これね、また入ってたの。今朝、げた箱に」

 松岡は白い封筒を受け取ると、中の手紙を読む。

「ふ~ん。思い出して、ね」

 じっと松岡の反応を待っていた花乃は、彼の声にぴくりと反応した。



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