恋文~指輪が紡ぐ物語~
「どう、思う?」
「これ書いた人、君に思い出してほしいんだろ?ってことはさ、知り合いなんじゃない?」
そう言って松岡は、花乃を見る。しかし、彼女は首を傾げるだけだ。
「きっと、花乃ちゃんがその人に指輪を渡したんだよ。てことは、ただの知り合いじゃない。大切な人だったんじゃない?」
思い出せない花乃は、困惑した表情のまま首を横に振る。
そんな大切な人なら、忘れたりなんかしない、と思うのに反論が出来なかった。
確かに、松岡の言っている事は一理ある。
「でも、花乃ちゃんは覚えてない」
松岡は、花乃の反応を伺うように、言葉を切った。
俯いた花乃は、なぜか自分が悪いような錯覚に陥っていた。
そんな彼女を察してか、松岡は優しく言う。
「別に責めてるわけじゃないよ。確認してるだけ。なら、かなり昔ってことなんじゃない?」
ーー昔?私が小さい頃?
考え込んでいる花乃を松岡は、何かを探るようにじっと見つめている。
黙り込んだふたりの耳には雨音だけが響く。
その音が耳障りでいらただしくて、松岡は舌打ちをしたくなった。