恋文~指輪が紡ぐ物語~

ーートクン、トクン

 手紙を読むうつむき加減の松岡の真剣な表情。
 長めの前髪が顔にかかる。

 さっきまで聞こえていた運動部の掛け声。図書室の外から聞こえていた楽しそうな喋り声。今、この一瞬、周りの音が、消えた。

ーーカタン

 松岡が僅かに身じろぎをすると、彼の座っていた椅子が音を立てた。
 その音にはっとした花乃の世界に音が戻っていた。

 手紙を読み終えた松岡は苦笑を浮かべている。

「…なんていうか、花乃ちゃんってよくも悪くも素直だよね」

 きょとんとした花乃に、松岡はやれやれと思いながらも優しい表情に変わる。

「ま、俺は嫌いじゃないけど」

 その小さな呟きは花乃の耳には届かなかった。

「手紙…それでいいかな?」

 昨日、松岡にマンションの前まで送ってもらった花乃はすぐ部屋にこもった。
 そして、松岡に言われたように手紙を書こうと机に向かったのだ。
 しかし、見ず知らずの相手。本当は知っているらしいが。
 何を書いていいのかさっぱりわからない花乃は、思ったままを素直に書いた。



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