恋文~指輪が紡ぐ物語~

    * * *

 大きく息を吸い込む。
 見上げた空には青空が広がっている。

「…いい加減に決着つけないとな。もう夏になる」

 ひとり呟いた言葉は誰に聞き咎められることもなく消える。

 ふと甦るのは、あの日の記憶。
 松岡の胸に決して消える事のない思いを残した記憶。

 言葉なんかでは表すことのできない――深い哀しみ。



 松岡が訪れた場所は屋上。

 屋上へ続く階段には『立入禁止』の立札がある。しかし、その先へ進めば屋上の入口のドアに鍵は掛かっていない。
 壊れたまま放置されているのだ。


 気分が滅入ると松岡は、ここに来て空を見上げる。

 もう何度となく訪れた場所。
 勇気をもらうために。
 踏み出す一歩をためらったときに。

 空を見上げて深呼吸をして、踏み出す。

 今日もまた――



「…自分で選んだ道ってね。うじうじ悩んでらんないっしょ」

 呟くと、松岡は屋上を後にした。






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