恋文~指輪が紡ぐ物語~
その瞳は志穂が初めて見る感情のこもった目だった。それがどんな意味を含んだものかは分からない。
「相手によって態度が変わるのは、誰だってあるだろう」
――あぁ、そうか。この人は、私が何を思ったのかを感じたんだ。
「君だって、俺に対してと花乃ちゃんに対しての態度は違うし」
「当たり前じゃないですか」
言い返して、ハッとした。
志穂は何のためにわざわざ昼休みに彼をこんなところに呼び出したのか。
「…噂、知ってますか?」
「花乃ちゃんと俺って、付き合ってたんだね」
のんびりと興味がなさそうに松岡は答える。感情を表さない瞳で。
「はぐらかさないで真面目に聞いて下さい」
怒鳴りつけているような剣幕の志穂に松岡はやれやれと肩をすくめた。
「君の言いたいことはだいたい分かる。けど、引くつもりはないから」
漆黒の瞳は、まっすぐで。意志の強さを感じさせる。だけど、どこか哀しい色を含んでいた。
そんな瞳に見つめられた志穂はたじろぎそうになったが、慌てて自分を奮い立たせて睨み返す。