恋文~指輪が紡ぐ物語~
あの時、松岡の哀しい表情を見た志穂は、あれ以上何も聞けず何も言えずに彼が視聴覚室をでるのをただ見送った。
ひとり残された視聴覚室はシーンと静まり返り、外の音さえも跳ね返しているような孤独を感じていた。
「…なんなの」
自分が呟いた声の大きさに驚いた志穂はため息をはく。
意味がわからなかった。彼は何を知っているというのだろう?
彼は花乃の何を知っているのだろう?
花乃さえも覚えていない過去――。
松岡は、何者なの?
――キーンコーンカーンコーン
昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響く。
その音で我に返った志穂は、慌てて教室に戻った。
しかし、志穂の頭の中は、松岡の何とも表現し難い表情と、彼が去り際にポツリともらした言葉が消えずに残っている。