恋文~指輪が紡ぐ物語~
そう、あの時。
松岡が見せた表情。
時折見せる、辛そうな哀しそうな表情。
母親が夜遅くひとりで、指輪を見ている時の表情と重なる。
ずっと気になっていた。
どこかで見たことがあると。
やっと気付いた。
あの哀しそうな瞳は大切な人を失った人の瞳だ。
無意識のうちに花乃は首から下げた指輪を触っていた。
ハッとした瞬間、指輪がチェーンから外れ転がり落ちた。
――カツン、コロコロコロ
音のない空間に落ちた音は予想以上に大きく響いた。
そして、指輪は母の足元で転がるのをやめた。
母はハッと顔をあげ、花乃のいるキッチンの入り口を向いた。
そして、足下に転がった指輪を拾い上げる。
なぜかその動きが花乃にはとてもゆっくり映った。