恋文~指輪が紡ぐ物語~
指輪を拾った母は、僅かに驚いた表情をしたが、すぐに穏やかなそれに変わった。
「…懐かしい。こうすけくんだっけ?彼に会ったの?」
目を細めている母は何を思っているんだろう?と考える間もなく、母の口から洩れた名前。
――こうすけ
花乃は頭の中で、その名前を何度も繰り返す。すると、すぐに日に焼けた男の子の顔が浮かんだ。
「こうちゃん!」
そう、こうちゃんだ。
なんで、忘れていたんだろう?
ひとつ思いだすと、不思議なことにいろんなことが鮮明に思い出されてくる。
花乃には、遠い田舎に住むおばあちゃんがいた。夏やお正月におばあちゃんの家に行くたびに、こうすけと遊んでいた。
いつの頃からか、彼に会いたくておばあちゃんの家に行きたいと母にせがむようになっていた。
そして、父親の形見であり、最初で最後の贈り物の大切な指輪を彼に渡したのだ。
なんで?
なんで、こんなに大切なことを忘れていたんだろう?
花乃の胸に湧くのは、大切なことを思い出せた喜びではなく、大きな後悔。
そして、疑問。
松岡は、なぜこの指輪をもっていたんだろう?
考えられるのは、ひとつだ。