恋文~指輪が紡ぐ物語~
――コンコン
ドアをノックする音に、花乃ははっとして顔を上げた。
「花乃? ご飯食べないの?」
母の声に時計を見上げれば、時間は夜の8時になっていた。そう言えば、今日はミネラルウォーターを飲んだだけで何も食べてない。
昨日は、どうしたのだろう? 花乃は思いだせなかった。
そういえば、少しおなかが空いたかも。そう思った花乃は、母に「今から食べる」と返事をした。
部屋を出る前に、鏡で確認した顔は思った通り酷いものだったけど、母と話すいいきっかけになるかもしれない。
母の声を聞いた時、母の気持ちを聞いてみたくなった。
父を事故で亡くした母は、どんな思いでいたのだろう? どんな思いで花乃を育てたのだろう?
花乃は、いつも優しくて強い母親の弱音を聞いた事がなかった。だけど、辛くなかったはずがない。