恋文~指輪が紡ぐ物語~
キッチンへ行くと、優しい温かいにおいが漂っていた。
「ポトフ……」
「ちょっと、季節外れかなって思ったんだけど野菜をいっぱいもらったから」
夏がすぐそばまできている今の時期には、珍しい。花乃の家ではポトフは秋冬に食べる料理だ。だけど、花乃の好きな料理。空き腹にはちょうどいいかもしれない。
「いただきます」と言うと 花乃はゆっくりと、ポトフを食べ始めた。
その様子を見て、少し安心して母も食事を始めた。
季節外れの温かいポトフは、なぜか寒い冬に食べた時と同じようにほっとして温かい気持ちになった。お腹が満たされる頃には、うっすらと汗がにじんでいた。
だけど、花乃はなぜだか泣きたくなった。生きていると実感がわいてきて、またいろんな感情が押し寄せてくる。
「……お母さん。こうちゃん、事故で亡くなったんだって」
自然と言葉がこぼれた。だけど、花乃は自分がどんな顔をいているのかわからなかった。
言葉にしてみると、あっけない。だけど、重かった。ずっと忘れていた人なのに、人ひとり分の重さは想像以上で。驚くほど重かった。
きっとその重さの中に、たくさんの思い出が、想いが入ってる。思い出が、想いが多いほど重くなるのかもしれない。
「そう……」
一言つぶやいた母は、テーブルの上に置いてあった花乃の手を黙って自分の手で包みこんだ。
花乃が我慢していた涙が、自然とあふれてきて止まらなくなった。
何も考えずに、ただ泣いた。
子供のように声をあげて泣いた。
母がいつのまにか隣の椅子に座って抱きしめてくれていて、温かいぬくもりの中でただただ泣いた。