恋文~指輪が紡ぐ物語~
「おはよう、花乃」
キッチンでは、母がすでに朝食の準備を終えてコーヒーを飲んでいた。
テーブルの上にはホットケーキにスクランブルエッグ、サラダが並んでいた。
朝食用につくるホットケーキは薄くて、砂糖を控えめにした母のオリジナルで、サンドウィッチのように卵や野菜をはさんで食べる。おやつに食べる甘いホットケーキとは別物だ。
「おはよう。今日は遅番だっけ?」
「うん。だから夕食はよろしくね」
看護師をしている母の出勤時間は不規則で、花乃はできるだけ家事を手伝っている。母が遅番の日は、花乃が夕食を作ることになっていた。ここ二日間は何もしていない。
高校に入る前は、隣に住んでいる志穂の家でよく夕食をごちそうになっていた。今でもたまにお邪魔したり、作りすぎたと言っておかずをもらったりしている。
そういえば、昨日、夕食を食べるまで母とも顔を合わせていなかった。きっと、かなり心配を掛けていただろう。それでも、何も聞いてこなかった優しさに母の大きさを感じた。
「いただきます」
「昨日のポトフも残ってるんだけど、食べる?」
「うん」
花乃は久しぶりにしっかりと食事をした気分だった。昨日はポトフだけだったし、その前に食事をしたのは、と考えようとして止めた。
もしかしたら、お腹が空いていたから何もやる気にならなかったのかもしれない、なんて楽観的なことを考え始めた。
今の花乃は、それぐらいの気持ちでいなきゃ、押しつぶされてしまいそうなのだ。
「ごちそうさま」