ヴァンパイア†KISS~孤高の花
ヴァンパイア・キスの片隅で、その両親の魅惑のタンゴを見つめるデュオとルシアの姿があった。

ルシアは、想う。

(お母様はわたくしたちを愛していない。生まれた時から、一度も抱いてなどくださらなかった。お父様が言うことは、バイオレットの血を絶やすな、ばかり。わたくしを愛している者など、この世界には存在しない……。わたくしに近づいてくるのは、高貴なヴァンパイアの血を欲する腐れた下位のヴァンパイアばかり…)

ルシアは7歳ほどになって麗しさを増したその顔を横にいる兄に向けた。

デュオは、壁に寄りかかりながら両親のタンゴをなんの感情も読み取れないような表情で、ただじっと見つめていた。

(……お兄様は?お兄様は……わたくしを愛してくださっているのだろうか…?)

ルシアは、兄の心を読み取れないでいた。

月のようにミステリアスな微笑みで、兄はいつもその心を押し隠す。

ルシアもまたその孤独を押し隠すように、生まれてこのかた、気品あふれる気高い表情を崩すことはなかった。

わがままなまでに気の強いルシアの性質が、孤独を悟られることを拒んだ。

たとえ両親に愛されていないと知っていても。

ルシアにはわかっていた。

両親が愛し合っていないことも。

母は、父の魔力のようなキスの能力でその心を奪われたに過ぎない。

両親の他に見せつけるような魅惑的なタンゴは、彼らが愛し合っていない、その「象徴」。

「お兄様……」

思わずつぶやいたルシアの声に、デュオは瞬きをひとつして振り向くと、たった一人の妹に優しげな瞳を向けた。

「なんだ?ルシア」




「タンゴだけは、踊らないで」












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