出会う確率の方程式
その涙を見て、勇気はとても驚きながらも、

あたしに近づき、ズボンのポケットからハンカチを取り出した。


そして、あたしの涙を拭ってくれた。

「俺の方こそ、ありがとう」

「あ…」

お礼を言われると、また涙が溢れてきた。

そんなあたしに、少し困ったような顔をした勇気。

「ごめんなさい」

あたしは、勇気から少し離れた。

そして、指で涙を拭った。

ハンカチを出す余裕なんてなかった。

そんなあたしに、勇気は微笑んだ。


無理矢理かもしれないけど、優しい勇気の微笑みに、あたしは心を奪われた。

しばらく勇気を見つめてしまうあたしと、

そんなあたしを見守る勇気。

無言の時が、朝の清々しい空気の中で流れていった。
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