出会う確率の方程式
心臓の存在をこんなに感じるなんて…今までなかった。

あたしは生きているんだ。

妙なことを考えてる。

正門に向かって、前を歩いているはずの太田達も見えない。

右に曲がるとすぐに、階段をかけあがる。

真っ赤に染まった渡り廊下に、心地よい風が吹いていた。

あたしはキョロキョロと、辺りを見回した。

いつもなら、聞こえてくるクラブ活動の声も、今日は聞こえない。

静かで、孤独で、寂しい…渡り廊下。

あたしは肩で息をしながら、少しずつ力が抜けていくのを感じていた。

「そ、そうよね…。今日は、テスト前だもんね。いるわけないか…」

あたしは手摺に、もたれかかった。

なんか突然…虚しくなった。

「何…やってんだろ」

名前も知らないし、ほんの二回しか会ったことないのに。

あたしは…。
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