君と、○○のない物語
学生の義務である期末テストが行われる日、朔はいつもより遅めに教室に着いた。
特に寝坊した訳でもなんでもなかったのだが、通学中にまた金魚達が朔の周りを泳ぎだし、邪魔で通りにくかったのだ。
そのため到着したのはチャイムの鳴る10分前で、息を切らして教室に入った。
ちなみに、公鳥が同じクラスだと朔太郎が知ったのは、その日そのときの事である。
「…お、はよう…。」
「………はよ。」
今まで自分の前の席が常に空いている事を疑問に思ってはいたのだが、このクラスだけでも2人、学年ではその4倍は不登校がいると聞いていたので、まさか公鳥とは思っていなかった。
しかも席が前後。
これはまあ、あまり来ないから一番後ろに定着していた公鳥と後から入ってきたから更にその後ろの席を宛がわれた朔なので一応辻褄は合うけれど。
「学校で会うのは初めてだよな…。」
「テストだけ毎回来てる。」
「…授業受けてなくて問題分かる?」
「それなりに。」
公鳥は教科書に目を通しながら、必要最低限で答える。
…実際公鳥と仲良くしたいのは本当なのだけれど、昨日『一番話しやすい』と言ったのは撤回した方がいいのかもしれない。
「―…朔!朔!」
教室の前ドアの方からクラスの男子数名がすっかり定着した呼び名で呼んでいる。
主に朔太郎が行動を共にしている面子で、呼ばれることには別に不審点もないのだが、今は公鳥と話をしているのでどうしようかと一瞬迷う。
「…呼ばれてんだから、早く行けば。」
と、公鳥が単調に言うので、朔太郎は結局席を離れた。