君と、○○のない物語
多分この間の空き地の近くなのだろうけれど―…

「………ね、じゃあさ、私も行く!」

茅原は挙手して、若干照れて戸惑いがちに言った。

その言葉が予想外で、朔太郎は思わず聞き返してしまう。

「私通り道だから分かるし、部活も休みだしっ。本当は私一人で行けばいいかもしれないけど多分夏樹嫌がるから…大月くん一緒なら大丈夫なはず!あ、大月くん的に嫌?私一緒だと行きづらい?」

「いやいやいや!滅相もない!!」

「じゃあっ私鞄取ってくるからっ校門で待ってて!」

茅原は大急ぎで教室へ駆け戻って行く。

その様子が嬉々としていたことに、朔太郎は気づかずにいた。


この学校の生徒は大抵部活に入っているので、授業が終わってすぐに下校する生徒は少ない。

なので茅原と朔太郎で連れ立って帰っても他の生徒に見付かったりはしていないのだが、冷やかされたりしなくても既に十分気まずいというかぎこちないというか。

会話はあるが、いまいちお互い顔を見れずにいた。


「夏樹とはねー、幼稚園からずっとクラス同じなの。特別仲良い訳ではないけど付き合いだけは長いよ。」

「そーなんだ…公鳥ってずっとあんな感じなの?」

「んーん。学校もちゃんと来てたし、人気あったよ。ずっとバスケやってたしね、成績も良い方で友達多かったし、女子もカッコいいとか言ってたんだけど…。」

確かにクラスの奴らも『元々友達だった』などと言っていた。

なにも縁を切ったという訳ではないだろうが、今の公鳥の立ち位置は一体なんだというのか。


「大月くんは?」

「え?」

「転校の理由とか、前の学校の事とか聞いたことないなって…」

「ああ、俺親いなくて、此処に来るまで世話になってた人が事情で一緒に暮らせなくなったから、ばーちゃんとこ来たんだ。それまで会ったこともなかったけど。」

「…前に住んでたのは?」

「県内だよ。蓮見ってゆー小さい町。」

茅原は蓮見、と反芻して感嘆をはいた。

蓮見は都会でも田舎でもない、何の取り柄もない場所だったので、茅原は知らないのだろう。


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