君と、○○のない物語
「…何て言ったら良かったかなあ。」
茅原が溜め息混じりに呟く。
その表情は明らかに雲っていた。
「大月くんごめんね。夏樹と話したかったんだよね?」
「いや…あいつと何かあったの?」
「それは…夏樹に聞くといいよ。大月くんにならきっと答えるし、私詳しくは知らないから。」
茅原は情けなさそうに笑った。
本人は『特別仲が良いわけじゃない』と言っていたが、どうもそうではなさそうに見える。
仮に仲は良くなくても、人一倍あいつを心配しているのかもしれない。
「…折角、三人揃ったのに…」
「え?」
「ううん。なんでもない。」
茅原はやんわりとはぐらかして鞄を背負い直し、帰ろうか、と朔太郎を促した。
「…あ、俺ん家こっから反対側だから…。」
「そっか。じゃあ此処で…また明日。」
そう言われてから、朔太郎は大後悔に見舞われた。
男なんだから、此処は普通家まで送っていくべきじゃね?いやまだ真昼だけど、何か起こると思えないぐらい平和だけど。
「ばいばーい」
「あ、ぼ……ばいばい…」
なんだか、今更訂正出来なかった。
ぴちゃん
「…あ?」
また、一雫の水音がした。
何かの予感がして一旦は出た空き地をもう一度見返すと、やっぱり金魚はいつの間にか現れいて、空に赤い斑点を作り始めている。