君と、○○のない物語

「―…外が暗くなったな。今日は満月らしいぞ。」

猫は窓の外を向いて言う。
薄暗い空の中に、黄色い丸が一つ浮かんでいるのが見えた。

「満月には、朔も気を付けるんだな。」

「は?」

猫の言葉にちょうど被さるように、居間の方から祖母の呼ぶ声がした。

夕飯が出来たのだろう。

それに気を取られていたら、いつの間にか猫は窓から飛び出して何処かに行ってしまっていた。


満月の夜。どういう事だろう。

首をかしげながら廊下を歩く朔太郎は考えを巡らせながらも不思議に思っていた。

あの猫は公鳥といるせいか、思いの外色々な事を知っているようだ。

しかしそれをきちんと教えてくれないのは何故だろう。



〈来たよ、来たよ、〉


「え?」


〈来たよ、来たよ、お月様、〉



朔と祖母しかいない筈の家の中だというのに、幼い女の子が唄うような調子でそう言うのが聴こえてきた。

振り返っても見渡しても、その廊下には朔太郎以外はいない。


〈時計とおんなじ真ん丸で、〉




〈暗いお空に、やって来た、〉




〈お月様、来たよ、ほらね〉





「!」
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