君と、○○のない物語

ビキ、と、ガラスにヒビの入るような音がした途端、朔は目の前が真っ暗になるのを感じた。

何も見えない、聞こえない、足が、地についていない気さえする。


〈来たよ、来たよ、〉

〈来たよ、来たよ、〉


〈だから、〉





「―……っあ…」


急に意識は鮮明に戻り、拓けた視界に、朔太郎は呆然とさせられた。




…まず、どこから驚こうか。

家にいた筈が、何故かいつの間にやら外に移動していて、道の真ん中に立っていた事、

空が見渡す限り一面、金魚の群れで満たされて終わりが見えない事、

町も金魚も、全部引っ括めてモノクロに包まれている事、


ツッコミどころが多すぎる。

ふと、一匹の金魚が朔太郎の手に触れて気泡として消えた。

前に金魚と激突したときに、フラッシュバックのようなものが見えた事を思い出し、朔太郎は慌てたが、現れたのは予想だにしないものだった。

黒い髪、大きな瞳、少し遠くで金魚達の向こうから、朔太郎を見ている。

「…茅原…?」

だが、それにしては幼すぎる。

茅原は然程背は低くなく、年齢からすれば普通な方だ。

あそこにいる茅原によく似た女の子は、せいぜい10歳前後に見える。
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