君と、○○のない物語
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両親の他界を聞かされたのは三年前の冬。
朔太郎が学校に行っている間に起きた事故だった。
葬儀の日はどんよりとした厚い雲に覆われた、どうしようもないくらいの曇りだった。
昔読んだ本に、『葬式の日は雨か晴れどちらかで、中間はない』と書いてあった
覚えがあるのだが、まさに中間な天気だ。
朝見た天気予報でも一日中曇りとされていたし、まあ雨が降らない分マシだが、太陽がないせいで外は寒々しい。
それでも、火葬中ずっと朔太郎は火葬場の外に出ていた。
中では“誰が朔太郎を引き取るか”という議論が繰り広げられている。
本来なら祖母や従兄弟が妥当なのだろうけれど、従兄弟は家族が多く、経済的に余裕がないそうだ。
かたや祖母は引き取ってくれるつもりがあるようなのだが、他の親戚達は『高齢だし、転校しなければならなくなるし、』などと苦言を示した。
そう言う親戚達に引き取る気があるかというと別の話らしい。
“自分は引き取る事が出来ないが、心配だから”
そんな体裁を繕っておけば辛うじて薄情者や無責任にはならない。という自衛である。
あんな場に混ざっていたくないし、朔太郎は子供なりに気を遣って退室したのだ。
外には花輪が立てられ、大月の姓がでかでかと記されている。
火葬場のそばにある総合体育館からは、中高生の運動部らしき群れが呑気な声を響かせていた。
人が死んで悲しくなったり、寂しくなったりするのはごく一部の人だけだ。
今日此処に来ている人達だって、一体何人が本気で悲しみ泣いただろう。
この葬儀を終えたら、またいつも通りの生活が始まるだけ。
それが出来ないのは自分だけだ。
「…なーにしてんの?」
は、と花輪の前に立ちすくしていた朔太郎は我に帰り振り向いた。