君と、○○のない物語

葬式とは思えないような明るい声で朔太郎に手を振っている、見知らぬ青年が立っている。

―…というか、一応喪服は黒のスーツで男性らしい装いなのだが、髪はさらさらとした茶色のショートカット、顔はやたらと整っていて色白、細身で長い足、低いような高いような声。

男なのか女なのか、いまいち分からない中間な人だった。

「だれ。」

「え、ずっとお葬式いたのに?やだわー。お前がいなくなったから探しに来てやったのにさ。」

ああ…、と、朔太郎は今朝の記憶を引っ張り出した。

確か両親の職場関係の知り合いだ。

「寒くないの?」

「別に。中で皆、なんか話し合ってるし。」

「ああ。お前可哀想だなあ。誰も引き取らない。どうすんの?」

「どうって…」

このまま話がまとまらないなら、最終的には祖母の元に行くことになりそうだ。

しかし祖母とは会った記憶がない。

県内ながら遠いので転校しなければならなくなるし、あと一年足らずで卒業なのに転校は嫌だ。

「お婆さん家どこ?」

「苑生。」

「…へー。俺の故郷だ。」

「は?」

「なあ、俺が引き取ってあげよっか?」

「は!?」

この人は今日初めて会った全く見知らぬ人である。

更には名前も性別も知らぬ人である。

「昼のバイト先ではお前のご両親にかなり世話になったしな。一人暮らしの割に稼いでるし、何よりお前、親戚のオッサンと俺のどっちに養われたい?」

…オッサンの方が生活が安定してそうだけど。

「わけ分かんな―…」

「同情されるのはウザいんだろ?」

空気の動きが、ぴたりと止まった様に感じた。
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