君と、○○のない物語
「肘はちょっと動くけど、そっから指先までは感覚ないんだ。それでちょっと前まで入院してて、まだ病院通ってリハビリ中だけど、多分動くようにはならないんだってさ。」

右手が動かない不便で、学校に行かずずっと一人で家にいる。

そのうち部活も辞めてしまった。

「…いや、退院したばっかりの頃は、学校行く気も部活続ける気もあったよ。家がこんなだから、気楽になれるのは学校だけだって思ってた。」

けれど、むしろ家よりも学校の方が気疲れする環境になっていた。

友達は確かに気遣ってくれたし普通通りに接しようとしていたのだが、明らかな腫れ物扱いと、どうしても伝わってくる“こいつは何も出来ないからなんとかしてやらないと”という良心。

そんなのはいらないのに。

今まで通り友達として、馬鹿馬鹿しい付き合いをしていたかったのに、出来なくなっていた。

せめて、と思って部活に復帰しようと日が極めつけだった。

『公鳥が出来なくなった分、俺たちが頑張るから。』

もう、いつの間にかただの役立たずでしかなくなっていた。


「…それで…」

「…、分かってるよ、そうやって接するのは当たり前で、一番なんだ。けど、それまで友達だった奴等が急に、俺が何も出来ないこと前提で接してくる。…そしたら、人付き合いの方が出来なくなってた。」

公鳥は持ち上げていた右手を力無く左手から落とした。
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