君と、○○のない物語
人が人に優しくするとき、“自分を悪者にしたくない”と言う理由を持つ人がいることを朔太郎は知っている。
ある程度優しさを持つ人間であれば、自分自身が安心できる。
罪悪感を感じずに済む、後ろ指を指されたくない。
あのクラスメート達がそう思っていたかはさだかではないが、確実に公鳥には余計だったのだ。
更にバスケと言う、公鳥にとっての最高の活動の場を追い出される形となった。
「…言わなかったの、バスケ続けたいって。」
「…試合どころか、ほとんどの練習に参加できないんだよ。左手だけじゃ可能な事限られてるもん。それに、主に先輩だけど部活の方からは明らかに迷惑がられてた。それははっきりわかる。」
公鳥は唇を噛む。
涙が出る訳でもなく乾いていたが、瞳は大きく揺れていた。
「…別に俺、学校に来いって言いに来た訳でも説教でも何でもないから。」
「え」
「辛気くさい顔嫌いだからさ、愚痴とか聞いてやれる相手になれたらなって思ったんだよ。」
あの人がそうだったように。
自分もそうなれるように。
周りよりも何よりも、それが大事と思ってる。
「…変な奴…。じゃあなんで今日来た訳?」
「昨夜から気になって仕方なかったから。公鳥がこんなアッサリ教えてくれると思わなかったけど。」
「別に隠してねえもん。」
その言葉に朔太郎は笑い、何となくホッとした。
「帰るよ」と立ち上がって言うと、ギリギリ聞こえる程度の公鳥の声。
多分、「ありがとう」、だったと思う。