君と、○○のない物語
めざめのせかい


『探してるの』

『手伝って』


記憶を回想するだけの平坦な夢を、もう何度見ただろうか。

朔太郎はあれから、あの満月の夜の夢をよく見るようになった。

毎回毎回同じ内容で、幼い茅原が朔太郎に訴えかけてくる。

あの茅原には内緒、と言われたから誰にも言わないでいるが、茅原自身に聞いてみるのはいいのだろうか、というか茅原は知っているのだろうか?

茅原が金魚について気にしている素振りをみせた事はないから、ずっと無関係だと考えていた。



世間はすっかり夏休みとなっている。

部活のない朔太郎にとっては暇で仕方ない期間なので、宿題なんぞ最初の2週間で終わらせてしまった。

なんとも悲しい悩みであるが、あと1ヶ月どうやって過ごそうか。

いっそのこと二度寝でも三度寝でも24時間睡眠でもしてしまいたいが、如何せん蒸し暑くて一度起きたら眠れない。

「朔ー?」

そんなこんなで結局定時に起きてしまった朔太郎を、居間の方から祖母が呼んだ。

朝食だろうか、と思ったのだがどうやら電話が来たらしい。

「誰から?」

「病院からよ。担当医の先生」

「…ああ…。」

そういえば検診の為に夏頃に電話する、と言われた。が、何もこんな朝早くに電話して来なくてもいいのに。

朔太郎は受話器を受け取りながら瞼を擦って寝惚けから最低限頭を覚醒させた。

「…もしもし」

『大月君?朝早くに申し訳ないね。一度健診に来て貰いたいんだけど、いつなら予定空いているかな』

「毎日暇です。」

「はは。じゃあ明日来れるかな。明日ならこっちは何時でも空いているよ。」

「はい。じゃあ昼過ぎに。」

この町から病院は少し遠いので、昼過ぎに着くように行くのが妥当だろう。

軽く挨拶して電話を切り、顔を洗うために洗面所へ向かう。

鏡を見れば真っ先に首のうっすらとした傷痕が目に入ってしまい、気にしない振りをして顔に水を掛けた。
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