君と、○○のない物語
◆◇◆◇◆
空は怖いくらいに青く、雲は白い。
夏特有の青空の中、公鳥は墓地にて茅原と遭遇した。
手には花、一つのある墓前で立っており、そこは公鳥の目的地でもあった。
「…ああ、夏休みだから午前中にいんのか。」
「夏樹はずっと前から夏休みよね。」
「うっせ。お前一人で来たのかよ。」
「親は先に帰ったの。」
公鳥は改めてその墓を見やる。
茅原家の、年期の入っていながらもしっかりと掃除された墓石だ。
茅原から線香を貰って、墓前で手を合わせる。
この右手でもそれくらいは出来て本当によかったと、こういうとき思う。
「…何だかんだで夏樹、毎年来てくれるよね。」
「兄貴の代わりにな。…まあ、兄貴は先輩の命日だとか知りもしないけど。」
「どこで何してるんだろうねえ。兄ちゃん知ってたのかなー。」
公鳥の兄と茅原の兄は親友同士だった。
五年前に突然家出してしまった公鳥の兄について、茅原の兄は何か知っているのではないかと様々な人―特に公鳥の母―に問い詰められていたが、何も仄めかす事なく三年前に亡くなってしまった。
「…俺もう帰るけど、お前ずっといんの?」
「命日は年に一回しかないもん」
「すぐに盆が来るだろ…そこずっといると陽射しキツいって。日射病になんぞ」
「うー…」
太陽は頭上で爛々と輝いて紫外線を投下している。
周りには墓ばかりなのでいつまで経ってもそこが日陰になることはないし、まだ午前中でこの陽射しなのだから、日中には物凄いことになるだろう。
「…お前がそこでぶっ倒れたら先輩が困るだろが。」
「それ私の心配?」
「うっせ。」
公鳥が逃げるように背を向けて歩き出すので、茅原は可笑しくなってしまい、笑いを堪えながら公鳥を追いかけた。