君と、○○のない物語
「―…公鳥ー。茅原さーん?」
「あ?」
道の前方から声がして、眩しさに目を細めながら見やると、朔太郎が公鳥たちの方に走ってくるのが見えた。
「大月君、どうしたの?」
「ちょっと出掛けるところ…二人こそ二人で何してんのちょっと。」
「…お墓参り。今日、私の兄ちゃんの命日なのね。」
朔太郎は意表を着かれた様に目を丸くした。
だったら何で公鳥も一緒なのかと言いたげにしている。
「…俺の兄貴とコイツの兄が仲良かったんだよ。」
「ああ…そーなんだ…茅原さんって、お兄さんいたんだ。」
「うん。」
「何で―…」
「お前出掛けんじゃないのかよ。」
公鳥が口を挟むようにして言ってきた。
なんだか明らかに会話を遮ろうとしていたように感じて、朔太郎は不審に思う。
そりゃあいない家族の事は根掘り葉堀聞かれたくないだろうけど―…
「大月君はどこ行くの?」
「ん、あー…病院。俺定期検診受けないといけなくて。」
「そうなんだ…そういえば夏樹は今日病院ないの?」
「明後日。」
朔太郎が入院していた病院は、朔太郎が以前すんでいた町の近くの市にある総合病院であり、話によれば公鳥の通っている病院もそこらしい。
「…あ、行かないと電車の時間まずい。二人ともじゃあね!」
「ばいばーい」
朔太郎が走り去っていくと、茅原は手を振り公鳥はそっぽを向いていた。
そのうち朔太郎の姿が見えなくなると茅原は笑顔を一転させて、無機質な表情になる。
「…定期検診って、なんだろうね。」
「さあな。」