君と、○○のない物語
公鳥が入院したのはたしか半年前だ。
いつ退院したかは知らないが、ずっと学校に来ないと茅原が言っていたから恐らく3ヶ月は前ではなかろうか。
朔太郎が入院したのはその一ヶ月後、退院したのは引っ越してくる直前の二ヶ月前になる。
―…よく分からないが、大きな事故で1ヶ月も意識不明、挙げ句に腕が麻痺した患者が、そんなに短期間で退院できるのだろうか。
第一、公鳥には見たところ右手以外大きな問題があるようには見えない。
車に轢かれておいてそれはない筈だ。
(性格的には大問題だけどそれは置いておくとして。)
―…そういえば、朔太郎自身だってそうだ。
何故あんな事件を起こしておいて、自分一人こんなのうのうと暮らしているのだ。
今更ながら違和感を感じる。
現在と過去が噛み合わない。
何故、今のこの毎日があるのだろう?
「どうしてだと思う?」
「え?」
俯いて考えながら歩いていた朔太郎は、正面に立つその少年に気付いて足を止めた。
あと少しでぶつかるところだったというのに、彼は避けもせずに愛想よく笑う。
「どうして、矛盾が起きてると思う?それを考えてたんでしょ。」
「なんで分かる…」
「ついて来れば?出来る範囲で教えてあげるから。」
少年、といっても朔太郎より背の高い彼は、そう言って通路を進み始めた。