君と、○○のない物語
知ってどうにかなるようなことではないかもしれない。

けれどもし茅原や茅原の兄に関わっていたとしたら―…

(知るのはきっと、無意味じゃない!)

もしも茅原の兄について知ることが出来たら、ついでに春海の事も何かわかるかも知れない。

春海の居場所の手がかりも、何かしら掴めるかもしれない。

きっと春海は自分には会いたくないだろうけど、だとしても謝らなければならないのだ。

春海は悪くないと、面倒を見てくれた事の感謝を、伝えなくてはならないから。




結局、金魚はそう都合良く現れたりしなかった。

茅原の言う通りなら憂鬱感情でも食べに現れるものの様に思えるが、だとすると今までに現れたタイミングはなんだったのだろうか。
朔太郎にしか見えていないのも疑問だ。

ひょっとしたら自分もあの金魚の成り立ちに関わっているのか?




走り回って諦めがついてきた頃に通りかかったのは小さな空き地だった。

誰もいないし雑草だらけで荒れている。

此処は関係ないか、とそのまま通り過ぎようとした時、物音が鳴った。


「…猫?」

突然揺れた茂みから出てきたのは、一匹の茶色い猫だった。

人に慣れているのか、朔太郎を見ても逃げようともせずに一鳴きする。

「…お前も知ってる気がするなあ…」

朔太郎はしゃがんで呟く。

似たような猫なんていくらでもいるし、猫がヒントを与えてくれるとは思えないけど。

「金魚の事、なんか知らない?お前」

なんて、答えは返って来ないと分かりながらも聞いてみる。

ちょっと撫でたいな、と思い猫に手を伸ばした。

「気安く触るな、小僧。」

「…んん?」
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