君と、○○のない物語

然り気無くその話題を避けているような感はあったし、居候の身なのだからあまり深く追求は出来なかったが、春海は果たしてあの生活に満足していたのだろうか。

毎日笑って働いて楽しんだとしても、それだけでは理想の生活じゃないだろう。

「俺はいいんだよ。これ以上は高望みだ。」

本当にやりたいことを、春海は、きっとごまかしていた。



その日、朔太郎は自分が入院していた病院に再び足を運んだ。


別に自分の体調に問題があるわけではなく、一か八かの人探しに来たのだ。

発端は、前日の放課後である。


「…親?春海くんの?」

放課後、朔太郎は校門から出た茅原を見付けて呼び止めた。

「春海に生活させて貰ったり色々世話になったからさ、春海の両親にもお礼言いたいし、話も聞いてみたいんだ。」

「でもずっと留守でしょ。」

「うん。両親とも働いてるのかな。知ってる?」

「えーと…お父さんは遅くまで仕事してるみたい。お母さんは…入院、してるの


「え」

「だから、難しいんじゃないかな」

茅原はやんわりと言って然り気無く朔太郎から遠ざかった。

それ以上追求されるのを避けたように見えるのだが、茅原は誤魔化すのが下手なんだろうか。

あまりにも分かりやすいのだが。


この近辺で入院できる病院といったら、真っ先に挙げられるのは朔太郎もいた病院である。

茅原が避けるので何のための入院かは知らないが、そこである可能性は低くない、と思ってやってきたのだ。

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