君と、○○のない物語

入院中の人に家出息子について根掘り葉堀聞くのは少し気が引けるが、礼を言うくらいならいいだろう。

病院受付で公鳥という名字の女性がいるか尋ねてみる。

「公鳥さん、女性…はい、いますよ。ご家族の方ですか?」

「あ、いえ。違いますが…」

「なら、すみませんが面会は…。」

受付は苦い表情で言う。

なんでも難しい状態なので刺激してはいけないそうだ。

朔太郎は消沈して受付を離れるが、どうも諦めがつかない。

何でこうも春海の周囲で色々起きているんだ。

なんとかならないものかと、朔太郎は入院病棟に行ってドアのネームプレートから『公鳥』をしらみ潰しに探してみた。

何科にいるかも分からないので気の遠くなりそうな作業だが。

院内は静かだったが、同時に騒がしくもあった。

小走りで通りすぎて行く医師や看護師がさっきから何人かいて、声も時たま響く




「…どいてください!」

がらがらと台車を押すような音が近付くと同時に、その声は廊下に響いた。

朔太郎が振り向こうとすると、その横を医師や看護師、そして、ベッドに横たえたまま運ばれていく少年が、通り過ぎる。

その少年の目は閉じられて、口には呼吸器が当てられていた。

包帯に巻かれガーゼの貼られた少年を見て、朔太郎は一目で動けなくなる。

知っている。

こんな姿は見ていないけど。

まだ友達とも言えないだろうけど。

いや、会話だって一つも記憶には残っていない。

けど、

知っている。


『友達一号だって思ってもいい?』

『いやだ。』

『即答!?』


―…知っている!



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