君と、○○のない物語
むしろ朔太郎にとっては他の人間が見えていない事や、かたやこの少年には見えている事が不思議で仕方ないのだ。

「………。お前、見ない顔だよな」

「あ、あー最近引っ越してきたばっかりだから…」

「ああ、大月の婆ちゃんとこのか。」

…田舎の情報網恐るべし。

そうこう話しているうちに金魚達はこの前と同じように姿を消して、元通り平凡な風景に戻っていた。


「―…なあ、あの金魚って」

「夏樹?」

朔太郎の言葉を遮るように、今度は違う声が後ろから掛かる。

だが呼ばれたのは朔太郎の事ではない。

どうやら目の前にいるこの少年の事のようだ。

振り向いてみると制服姿の女の子が走ってきていて、少年に駆け寄った。

この女の子にも見覚えがある。
…というか、毎日教室で見ている。

「…あれ、大月くん?」

「あ、えーと…」

「茅原要。同じクラスだよ。」

同じクラスといえど自己紹介は別にしなかったので、男子はともかく女子の名前までは把握していなかったのだ。

茅原は、スカートは長めで肩口まである髪もきちんと結わえている、見た目からして真面目な何処にでもいる女子だ。

ただ大きな瞳と揃った前髪のせいか、どことなく日本人形のように見える。

可愛い部類だ、と思う。


「…で、夏樹いつのまに学校行ったの?会わなかったのに」

「今から。」

「もう放課後じゃんか…早く行きなよ」

「言われなくても。じゃあな。」

夏樹とやらはそっけなく対応して、再び学校への道を進み始めた。
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