歌姫と騎士
第一夜 歌姫が紡ぐ唄
東の国桃和郷に、美しい桜が咲き誇る季節がやってきた。
首都のシルウィールの街では春一番に行われる、『卯月の宴』のための準備で賑わっていた。
『卯月の宴』というのは、桜が散ってしまわないうちに、桃和郷の王子が主催する春一番の祭だ。
…いわゆる『桜の花を愛でようの会』。
しかしその祭は、王子が住まう宮殿内で催されるだけでなく、3日の間、シルウィールの街でも一切の仕事をしないで、街をあげて桜を愛でる。
それは、桜がこの郷で昔から崇められるものであり、守り神として桃和郷を護ってきた大切なものだから。
そして、人々が桜を『始まりの花』と称するため、このように盛大な祭が街全体…いや、地方でもささやかながら祭は行われる。
今年も豊作であるように。
商売が繁盛するように。
豊かで、温かい1年であるように―…。
そんな願いから、『卯月の宴』は毎年途絶えることなく続いている。
そして今年も、例年にもれることなくそれは行われる。
――…不穏な空気をその身にまとい―…。