歌姫と騎士
咲き始めた桜が、夕焼け色に染まり、その色を紅に染めている。
風がさわさわと心地良い音をもたらしながら、1日の終わりを告げていた。
『王子はその歌姫の噂を耳にしまして、ぜひ宴でその歌声を聞きたいと』
『は、はぁ…』
なぜ宮殿内で歌姫の噂が流れたのか、しかも、『絶世の歌声』なんて…。
自分に、似ても似つかないいきさつや言葉に、ミヤビは目を白黒させた。
『…そういうわけで、街で有名な歌姫であるミヤビ殿に、お願いに参ったのです』
やはり表情を崩さずに、要点だけを告げた使者は、最後に明々後日迎えに来る時間をミヤビに教えた。
『明々後日の午後5時にこちらから迎えにあがります。それまでに準備を』
『えっ、あの…』
『では』
本人の意思を聞かずに、去っていく使者を見つめながら、ミヤビは1人、口をぱくぱくさせていた。
さきほど、桜を真っ赤な紅に染めていた夕日は沈み、空には藍色の世界が広がり始めていた。
「まあ、それじゃあ、明後日には宮殿に行くんだね?」
ミヤビの話を聞き終えたサカキは、目を丸くして言った。
ミヤビはこくんとひとつ頷くと、近くにあった浅黄色の絹を手に取った。
「だから、急いで宮殿で歌を披露する時の洋服が必要なの。……ほら、あたし正装の服を持っていないでしょう?」
手にある美しい絹を見つめながら、ミヤビは言った。