歌姫と騎士
…本当は、歌を歌うときに着ている服なんてなんでも構わないのだが、場所と時がいつもと違う。
私服のままで宮殿に行っては、せっかくの宴を台なしにしかねない。
それに、王子の気を削いでしまっては、あとでどんなお咎めがくるかも判らない。
「だからこうして、服を仕立ててもらいに来たのよ」
「なるほどねぇ」
うんうん、と頷きながら話を聞いたサカキは、ミヤビが手にしている浅黄色の絹を取って、同情の眼差しを向けた。
「あんたも大変だねぇ、宮殿に、しかも王子の前で歌わなきゃならないなんて」
サカキの言葉に頬を膨らませて、もうひとつ、今度は桃色の絹を手に掴んでミヤビは憤慨した。
「本当よ。なんでわたしが宮殿まで行かなきゃならないのよ…。我が儘王子にも困ったものね」
「うーん…」
『我が儘王子』という単語に、女主人は苦笑いを浮かべた。
そして、丘の上に建っている壮大な宮殿を思い浮かべながら思った。
……ミヤビが、王子の『お気に入り』にならなきゃいいけどねぇ…。
結局、絹の色もなかなか決まらなかったので、ミヤビは選色から仕立てまでの一切をサカキに任せてしまった。
しかし、街で有名な『色彩屋』だ。
きっと自分に似合い、かつ、正装になるであろう服を作ってくれるだろう…と思い、ミヤビは家路についた。