歌姫と騎士
家へと続く道を歩きながら、ミヤビは王子について考えていた。
「確か…去年郷王に即位したんだっけ」
ミヤビを宴の歌姫に、と選んだ王子は、去年郷王に即位したばかりの、まだ新しい郷王だ。
去年、流行り病で死んだ郷王の1番目の王子で、次の郷王になることは、生まれた時から決まっていた。
しかし、誰もがこんなに早く郷王が病で没し、第一王子が郷王に即位するなど考えもしなかっただろう。
……そう、郷王の死はあまりにも早過ぎる死だった。
45歳という若さで死んだ郷王に、宮殿や街の者、郷全体が哀しみに沈んだ。
当然、第一王子もそうであったろう。
しかし、哀しみに暮れる間もなく、王子は郷を治める王として、立ち上がらなければならなかった。
第一王子・チギリは今年で18歳。
その若すぎる年齢ゆえに、即位から1年経った今でも彼は世間から『王子』と呼ばれている。
『郷王』ではなく。
「王子もいろいろ大変なのかなぁ…」
考えを巡らせたミヤビは、道にある石を蹴りながら呟いた。
18歳といったら、自分と2つしか歳が違わない、そんな人物にミヤビは思いを馳せた。
いったい、どんな人なのだろう…。
きっと、王子自身が悲しく、辛いに違いない。
父である郷王を亡くし、自分が郷王の座に就かなくてはならなくなった王子を、ミヤビいたたまれなくて仕様がなかった。