歌姫と騎士
「でも宮殿で流れる噂に耳を傾けて、それに興じるくらいだからなぁ…。案外元気なのかも」
街娘のただの歌を聞きたいくらい、暇なのかも…と心の中で付け足して、ため息をついた。
その時だった。
近くの店の中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「なんだと小僧!もういっぺん言ってみろ!」
声がする方の店を見ると、周りには沢山の人だかりが出来ていて、店の中を伺っていた。
少し興味が湧いたミヤビは、その店の方に歩を進めた。
店は、小さな喫茶店のようで、看板に『桜喫茶』と書かれていた。
「だから!もう一度言ってみろってんだ、小僧!」
「ああ、何回でも言うさ!その剣は『隼』なんかじゃねえ、ただの剣だ!」
近づくにつれ、怒鳴り声は大きくなり、相当大きな言い争いをしているようだ。
「ちょっとすいません……」
人だかりで店の中の様子が見えなかったので、人の間を掻き分けて、ミヤビは店の中に入り、喧嘩をしている者達を見た。
1人は、剣を片手に持って、顔を真っ赤にしている中年の男。
…どうやら、その剣について言い争っているみたいだ。
そしてもう1人は…。
「わあ…」
もう1人は、目を見張るような美貌を持つ少年だった。
歳の頃は、ミヤビと同じくらいの15、6。
焦げ茶色の髪に、それと同系色の瞳。
身長はそんなに高くはなさそうだが、細い手足が印象的で、彼の体のしなやかさを物語っていた。