歌姫と騎士





綺麗に整った顔に、ミヤビは思わず見とれてしまった。


「このガキ…やるか!?ああ!?」


今にも掴み掛かりそうな勢いの中年男に、しかし美少年は怯むことなく、言った。


「いいよ。でも、そしたらあんたは、切り傷どころじゃ済まないけどね」

この言い方が勘に触ったのか、中年男は店のテーブルを蹴り飛ばして、意味不明な雄叫びを上げた。


「お、お客様っ」


店の主人であろう男が、中年男を止めようとしたが、それを気にせず、今度は椅子を蹴った。



「ちょっと!いい加減にしなさいよ!」


そこまで見ていたミヤビは、遂に我慢出来なくなり、中年男と美少年の前に進み出た。


ただの喧嘩なら、ミヤビもただの傍観者となっていただろうが、この喧嘩は、店に危害を加えかねない。


…実際、もう机と椅子は被害を被っている。


店の主人が『もう辞めてくれ…』というような顔をしていたので、ミヤビが止めに入ったわけだ。


「いい加減にしないよ。喧嘩するのはいいけど、お店のものは壊さないでちょうだい!それに、周りの人も迷惑よ」


中年男をきっと睨んで言うと、男は口許に笑みを浮かべて笑った。


「はっ!お嬢ちゃん、邪魔だからあっちに行ってな。怪我したくないならね」


嘲笑う言い方に、ミヤビの我慢は限界に近づいていく。


確かに、自分は女だから暴力とかそんなのは出来ないけど…。





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