歌姫と騎士
『ミヤビちゃん、歌姫の歌をそのおやじに聞かせてやれ!』
『そうだそうだ!ミヤビちゃんの歌でそいつを黙らせろ!』
『いくらなんでもやりすぎよ!』
などと、野次馬のあちこちから声が上がった。
「歌姫ぇ?なんだそりゃ。お嬢ちゃんが歌姫だってのか。ハハハ、笑わせんじゃねえ。歌姫ってのは、こんな街娘とは訳が違うんじゃねえのかよ」
歌姫を小馬鹿にした言い方に、野次馬だけでなく、ミヤビまでもが怒りの色を示す。
『なんだとっ、このおやじ!』
『ミヤビちゃんの歌を馬鹿にするなっ』
『ミヤビちゃんは正真正銘、歌姫だ!』
次々と言い返す人々に、中年男は、その沢山の声に負けないくらいの大きな声を出した。
「だったら歌ってみろよ!その歌姫の歌を!」
『ミヤビちゃん!こいつに歌姫の歌を聞かせるんだ!』
『そうだ!馬鹿にされたままでたまるかっ』
『ミヤビちゃんっ!』
いつしか、中年男と美少年との喧嘩は、歌姫を巡る中年男と野次馬との喧嘩になってしまっている。
男の怒りの矛先が自分からそれたことに、少なからず安心した美少年は、なにやら面白くなりそうな喧嘩の行方に、1人、笑みを作った。
ミヤビはというと、なぜ自分の歌が喧嘩の話題になったのか解らないままだが、歌を馬鹿にされたことには、腹が立っていた。
自分の歌に絶対の自信を持っているわけではないが、それでも『歌姫』を馬鹿にされたのは許せない。