歌姫と騎士
ミヤビは瞳を男に向けて、その顔に柔らかい笑みを作ってうやうやしく言った。
「ではおじさん。皆さんとあなたの期待に応えて、このシルウィールの街の歌姫・ミヤビが1曲披露致しましょう」
軽くお辞儀をして、ミヤビはニッコリと微笑む。
突然の彼女の行動に、中年男はたじろぎ、目を細めて1歩後ずさった。
それとは対照的に、周りの人々は待ってましたと言わんばかりの、盛大な拍手を送る。
『待ってました!』
『よっ、街の歌姫!』
『ミヤビちゃん、男に思い知らせてやれ!』
人々の声を背中に聞きながら、ミヤビは店の中央へと移動し、くるっとスカートを翻して男の方を見た。
「それでは今日は、わたしの幼い頃からの思い出の歌を…」
ミヤビは息を、す…っと吸い込んだ。
そして、歌姫が一声歌った瞬間、それまで面白がっていた、そもそもの喧嘩の相手――美少年の顔色が変わった。
『夕焼けが沈むころ
優しい声と温もりが
もうすぐあなたに
降り注ぐ…
ほら
急いで帰ろう
あなたの場所に
お日様が昇る頃
愛しの声と清廉さが
そっとあなたを
包み込む…
ほら
早く目を覚まして
わたしがいるうちに
いつでもあなたは
感じられる
わたしの温もり
わたしの声
そしてあなたが
手をのばす
わたしのもとに
その先に…』