桃色ドクター
私は、ふたりの話をなるべく聞かないように携帯をいじったり、寝ているふりをしてみたり努力したが、一言一言細かく耳に入ってくる。
「仕事頑張れよ」
「仁も、頑張ってね」
いろいろあったんだよね。
愛し合っていた時期もあったはず。
私が雅也と別れるときに、感じた切ない気持ちを今、仁ノ介も感じている。
そんな夜に、私を抱く。
それは、仁ノ介にとっても不本意なんじゃないか。
私は今夜は家に送ってもらおう。
「私を先に送ってください」
振り向いた由美子さんが、気にしないでねって笑った。
「方向的にも、香織は後だ」
私の気持ちも知らないで、仁ノ介はクールに言い返す。
私に気を使ってか、その後ふたりはあまり会話をしなかった。