桃色ドクター


豪邸が並ぶ住宅街で車を停めた。



「香織、ちょっとだけ待っていてもらえるか?」


仁ノ介は、由美子さんのご両親に挨拶をすると言った。



それが仁ノ介なりのけじめ。


さすが、仁ノ介。

かっこよすぎるよ。



バタンと閉まる車のドア。



冷房をかけたままの車内は急に肌寒くなった。




豪邸の玄関から淡いオレンジ色の灯りが漏れる。


庭の松の木が美しく手入れされていた。


私と出会わなければ……


瀬名仁ノ介は、私と出会わなければ……



由美子さんと結婚していたと思う。





仁ノ介は、私と出会っていなくても由美子さんとは結婚しなかったと言っているけれど。


私の存在がいろんな人を苦しめているんじゃないかって気持ちが湧き上がってきて、
この場所から逃げたくなった。






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