桃色ドクター
「ごめん。待たせてしまって悪かった」
戻ってきた仁ノ介の表情を見て、由美子さんの家族との話し合いがあまり良いものではないとわかった。
婚約破棄を言い出した相手との話が楽しいわけはないが、しっかりと挨拶に来る仁ノ介を少しは評価してほしい。
逃げちゃう男だっていると思うんだよね。
運転席に座った仁ノ介は、ふーっとため息をつき、車を走らせた。
「大丈夫?」
「ああ。大丈夫。香織がいるから。今夜は朝まで一緒にいて欲しい」
いつもの声と違う。
元気がない仁ノ介。
私は今夜は帰ろうと思っていた。
でも、泣いちゃうんじゃないかって思うくらいの悲しい目をした仁ノ介を見て、そばにいたいと思った。