桃色ドクター
「僕は、彼女に出会って初めて知ったんだ。誰かに愛されることに幸せを。心が安らぐってこういうことなんだってことを」
泣いちゃうよ。仁ノ介……
少しだけ顔を私の方に向けた仁ノ介は、小さく咳払いをして、また正面を見た。
「それを由美子にも知ってほしい。僕といて、君は安らげたことがないだろう。君に合った男性が、いつか君をそんな気持ちにさせてくれると思う」
由美子さんは何も言わなかった。
きっと、仁ノ介の言葉が当たっているから。
「今回のことは、突然で申し訳ないが、これ以上彼女に何か言ったりするのはやめてほしい。おじさんも、お願いします。おばさんも、娘さんの幸せを願っていると思うんです。愛し合った相手との結婚こそ、幸せなんだと思いませんか」
由美子さんのお父さんは、お茶をゴクンと音を立てて飲み込んだ。
そして、頭を下げ、大人気ない行動を取ってすまなかったと謝った。
私は、何も言わなかった。
ただ、仁ノ介の隣に座っていた。