桃色ドクター
第16章~一歩~【完】
私と仁ノ介は、一歩進むことができた。
これですんなりとおとなしくなってくれるのかどうかわからない。
「もう不安じゃないよ」
私に不安はなかった。
仁ノ介の力強い言葉、瞳、全てが私の支えだった。
「俺が守るから安心しろ」
仁ノ介は、由美子さんと由美子さんのお父さんに出したお茶のグラスを流し台へと運びながら言った。
「お疲れさま」
洗い物をしようと水道の蛇口をひねる仁ノ介の背中に触れると、ほっとしたような表情で振り向いた。
「疲れた。誰かを傷つけないと前に進めないこともある。あいまいな態度がより人を傷つけることもある。俺は自分に正直でいたいだけなんだ」
スポンジに洗剤をつけ、グラスを手に持つ仁ノ介。
「ありがとう」
背中にピトっと顔をくっつけた。
こんなことも仁ノ介以外にはしたことがない。
仁ノ介は泡だらけの手で私の手を握る。
手にはグラスを持ったまま。
仁ノ介とキスをした。